高齢者に生じやすい精神疾患として、妄想やせん妄のほか、認知症や老人性うつが挙げられる。老人性うつは、一般的なうつ病と同様に、気力の減退や抑うつ気分のような症状があるほか、動悸やしびれといった身体症状をともなうことも少なくない。不安や焦りの気持ちが強くなり、残り少ない人生に対して絶望的な心情を抱くことも多く、自殺につながることもあるので、介護職員は十分な注意が必要だ。ぼーっとして目の焦点が合わず、話しかけても反応が返ってこないなど、アルツハイマー等の認知症に似た症状も起きるため、認知症と誤認しやすい。
しかし、自覚症状がほとんどない認知症と異なり、老人性うつを抱える高齢者は記憶力や判断力の衰えを自覚している。したがって、老人性うつになっても、症状を隠して介護職員に打ち明けようとしないことも珍しくないだろう。老人性うつは、認知症より進行が早く、放っておくと短期間に重篤化することもある。介護職員は、高齢者のプライドを傷つけないよう慎重に対処しながら、早期の段階で老人性うつの改善に努めなければならない。抗うつ剤や抗不安薬を投与すれば、かなり回復することもあるからだ。
また、老人性うつの患者に対しては、介護職員が無理に励ましたり気分転換を要求したりせず、静かに見守る姿勢を崩さないことが大切である。過度な干渉は避けるべきだが、逆に無視することも、高齢者に孤独感を与え症状を悪化させることから、避けなければならない。介護職員が高齢者と悩みを共有しながら、生活改善や娯楽の提案を試みるといった取り組みが欠かせないのである。